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s*nymemo

自転車やカメラのレンズに関する何やかんやと日常の雑記からなるblog

実写性能が気になる弩級のレンズ構成 FE50mm F1.4 ZAもといZeiss Planarの話をしようか

撮影機材 レンズの話

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SONYが海外でフルサイズEマウント用の大口径標準レンズ FE50mmF1.4ZAを発表しました。

9群12枚のレンズ構成にPlanerの名が冠されていることを疑問に思われる方もいるようですが、

ZEISSとSONYというどちらも大手企業の名を関した製品に、適当に名前を付けることが許されるわけ無いだろう、****が

目次

レンズ構成を眺めてみる

Planarとはなんぞや(Planarを取り囲むレンズの歴史)

初期ガウス型レンズ

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そもそもPlanarとはなんぞやというところから話を遡ってみると

Zeiss Planarは、Carl Zeissのパウル・ルドルフが1896年に設計した写真撮影用レンズの名前。ルドルフが手がけたオリジナルのものは、完全対称な6枚のレンズから構成される。 (英語版Wikipediaの抄訳)

うむ。あっさりしている。

ま。ともあれ、ココだけ読むと、突然降って湧いて出てきたレンズに思われそうだけれど、歴史的なことを遡ると、

初代プラナーは、ダブルガウス型の発展過程における代表的なレンズのひとつで、完全に前後対称である。対称な設計は像面湾曲や歪曲収差が抑えられ、平坦を意味するプラーン(独:Plan )が名称の由来である。 (日本語版Wikipedia引用)

ガウス型(ダブルガウス型)と呼ばれるレンズ構成は、もとを辿れば、1888年にボシュロム社のClarkが設計したポートレートレンズが元となっており、このレンズ構成に(大幅な)改良を施したのが、1896年のルドルフのPlanar。今から100年以上も前のことである。

このレンズが設計された当時は、計算は、対数表や真数表を用いた手計算、また使える硝材の種類も極めて限られた時代。

限られたリソースの中でいかにして収差を抑えるかを考えた中で編み出されたのが、貼り合わせレンズの硝材を同じ屈折率かつ異なる分散のもので構成するという技で、これにより基本波長の光線が屈折せず、貼り合わせレンズを一枚の厚いメニスカスレンズとみなして8面のみで最適化計算ができるようになった。さらに、少ない計算量でレンズ設計を最適化した後、貼り合わせレンズの接合面の曲率のみを変化させることで、色収差のみを補正することができるというまさに匠の知恵と技によって出来上がったのがPlanarなわけである。

が、それはウラを返せば、それだけ、Planarの設計当時は、(物理限界に起因しない)レンズ設計における制約が多かったということ。

ここからさらに時代が進み、使える硝材の自由度が上がるとともに(=選べる屈折率・分散の選択肢が増えるとともに)レンズ設計の自由度が上がり、1920年には、テーラーホブソン社のLeeが、各硝材の屈折率を最適化し、Planarの対称性を崩したガウス型レンズを設計している。

さらに、1933年には、Leicaのマックス・ベレークが、Summar 50mmF2.0を設計しているのだけれど、Leicaについては宗教上の理由で触れることができないので、ここではそんなレンズがあったのね。という程度にとどめる。

M型ライカとレンズの図鑑[雑誌] エイムック

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なお、このSummarは、Leeから始まる『対称性を崩したガウス型レンズ』の構成で、ガウス型レンズの典型的欠点を引き継いでいる。具体的には、中間画角から周辺画角にかけて発生するフレア(ものの本によると、これは実際には『メリオディナルとサジタルハロ、これに付随するリンネンフェラー』であるらしい)が残存している。

改良型ガウス型レンズ

この後、ガウス型レンズの上記欠点を克服すべく、多くの改良が施されてきた。

例えば、前群の接合面を分離し、主光線より下側の光線をより強く曲げてハロを補正したXenon 50mmF2.0、

他方、前群ではなく、後群を分離した構成の第2世代のSummicron 50mmF2.0(1969年)。ちなみに、後群を分離した構成は、レンズの偏心に敏感であり、卓越した製造技術・生産管理能力を持つLeicaであればこそ量産できたレンズといえるのだろうが、Leicaについては宗教上の理由で触れることができないので(以下略)。

Leica ライカ Summicron M 50mm F2 11826【並行輸入】

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他には、後群絞り直後の凹面を出来る限り緩くし、球面収差・非点収差の増大分を、前群のレンズの屈折率を上げるとともに第4レンズの屈折率を下げることで、バランスさせた銘玉 Serener 50mmF1.8(1951年)など。

とかく、ガウス型のレンズは、本家のCarl Zeissに限らず、多種多様な改良に次ぐ改良が施されてきたわけである。

ガウス型レンズの発展

さらに1937年ごろからKodak社により開発された新種ガラスの登場や、非球面の実用化、反射防止コーティングなどなど、光学技術の発展により、さらにガウス型レンズは進化を続けるわけで…

フレアを改良する手段の1つとして接合面が追加された、Summitar やNoktonといった現代でもお馴染みのレンズや、長焦点レンズへの応用と見ることが出来るSerener 85mmF1.5やSummarex 85mmF1.5。

VoightLander 単焦点広角レンズ NOKTON 25mm F0.95 Micro Four Thirds マイクロフォーサーズ対応 232013

VoightLander 単焦点広角レンズ NOKTON 25mm F0.95 Micro Four Thirds マイクロフォーサーズ対応 232013

大口径化の手段として正レンズの複数枚への分割が行われた、Canon 50mmF0.95、Xenon 50mmF1.5などなど

キリがないのでこのへんで。

現代のPlanarとは

とまぁ、Planarの前後のレンズ史はこんなところであり、つまるところ、Planarという名の初期のレンズは完全対称なガウスタイプであったけれど、時代を重ねるにつれて、なんの背景知識も持たずに理解するには困難な程度には、数多の改良が施されて複雑化している。

ので、レンズ枚数の過多でPlanarかどうかなんて判定のしようがないため、丁寧にレンズの構成を紐解いていく必要がある。

という、わりと当たり前の話に落ち着いてしまうわけ。

FE50mm F1.4 ZAのレンズ構成

さてと、ようやく本題に入ると。Planar T* FE50mm F1.4 ZAのレンズ構成はこんな感じ

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Planarをベースに改良を加えたと仮定すると、まずは、対称な構成の貼り合わせレンズ(赤丸)が目に入る。

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さらに外側のレンズ構成(青丸)も、平面+非球面+球面からなるレンズ群と、最後面の非球面レンズとでバランスがとれそうである。*1

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入射してくる光束が多い前段を複数枚(3枚)に分割できたのは、フランジバックの短いEマウントの利点を最大限生かした設計に思われる*2。FE70-300といい、Eマウントのメリットを活かしたレンズ設計が増えてきており、SONYのレンズ設計者のレベルの高さが感じられる。

sonymemo.hateblo.jp

最前面が僅かながら凹面に形成されているのは、徹底したフレア対策の賜物だろう。過去のFEレンズ(FE55, FE35など)同様、筐体内(主にレンズ界面)で生じた迷光が、前群のレンズに達した場合でも筐体内側面で発散するようにした、と考えて間違いなさそうである。

SONY 単焦点広角レンズ Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA フルサイズ対応

SONY 単焦点広角レンズ Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA フルサイズ対応

仮に最前面を凹面にすることが既定路線であったとすれば、凹面を入れたことによる収差補正のため、第1レンズと第2レンズの間に空気レンズが導入され、サジタルハロを補正するために非球面を第2レンズに入れたのかもしれない。

空気レンズの導入は高度の収差補正に有効だが、偏心精度が厳しくなる傾向にある。このレンズ枚数(12枚)での空気レンズの導入はかなり偏心精度に気を遣わされるはずであり、製造技術・生産管理技術への自信の表れとも見ることができる。近々に発売されたGMasterシリーズでは品質の管理が徹底されている(以前より改善されている)との海外のレビュー記事も見受けられたので、SONY社内での技術力が、相当上がっているのかもしれない。

最背面のレンズに、けっこうな曲率の非球面レンズが奢られているのを見るに、中間のフォーカシングレンズ群と思しきレンズ構成との兼ね合いもあり、最終的に残った収差が通常の硝材では抑えきれなかったのではと推測される。やや力技が感じられるところではあるが、9群12枚の弩級のレンズをラストは非球面レンズ1枚で完成させた手腕は見事というしかないだろう。

続いて気になる中間のレンズ群なのだけれど、おそらくは、中間位置にあるオレンジの丸で囲ったレンズあたり(2枚か1枚かはわからないのだけれど)フォーカシング用のレンズと思われる。

インナーフォーカスを実現するために、作動用の空隙が設けられるとともに、『最も小さいレンズをフォーカシングに用いる』というのはセオリー通りといったところだろうか。

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フォーカシングレンズの手前にあるEDレンズ(緑)は、フォーカシングレンズを最大限コンパクトにするため、光束を狭める働きをしていると思われる。

フォーカシングレンズの後ろに位置するレンズが、EDレンズと対称的な形状をしているのは、EDレンズとのパワーバランスをとる役割だろうか。

この4枚がインナーフォーカス機構を実現するための肝ではないかと思われるのだが、どうだろう。

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雑感

ま、というわけで、適当ながら、レンズ構成を見てみた感想としては

焦点距離の変動に伴う収差までキッチリ補正することは大前提として、大口径化のため第1群のレンズを3枚に分割し、中間域に主としてインナーフォーカスを実現するため4枚からなるレンズ群を挿入した、現代的改良型Planarという結論なのだけど、

正直、どの順番でこのレンズ構成を決めていったのか、皆目検討がつかない。*3

なんにせよ、作り手の熱量が感じられるこのレンズ、発売が楽しだ。

追記

その他の注目点

  • 最大撮影倍率が0.15倍
    • 最短撮影距離 0.45m
    • FE55mmより少しだけ寄れる。FE55mmは使っていて、寄れないことに不満を感じる場面もあるので、少しではあるけど、FE55mmより寄れるのはうれしいところ。
  • 絞り羽根 11枚 円形絞り
    • GMシリーズから11枚になっていたようなのだけど、11枚もの絞り羽根を制御できるモータを積んでいるのか、というのはかなり驚き
    • 絞り羽根の枚数は多ければ多いほど良いけれど、枚数が多いとモータへの負荷が高くなるため、他社では9枚程度に抑えられているのが一般的であるなか、11枚というのは極めて意欲的。
    • シネレンズと同レベルの枚数であることからも、動画対応への本気度が伺われる。

価格情報

US1500$とのことなので、国内では20万円前後、かなぁ。

撮影サンプル

開放からバッチリ解像。ピント面以外でも色収差は見受けられず、ボケ味も極めて良好といったところでしょうか。

ePhotozoneの花の作例については、後ボケが煩く見えるのですが、これは背景が悪い(高周波成分の多い背景)かもしれません。鳥の作例についても、ボケが微妙に見えるのですが、『金網越し』の撮影と記載されているので、こちらはその影響でしょう。

*1:いや、とれそうにないけど、説明の都合上そういうことにする。そもそも何のバランスがとれてるんだよっていう。

*2:光学的には前段を分割したほうが良好に大口径化を図ることができるが、必然的にバックフォーカスが短くなるため、一眼レフ機ではこの設計は極めて採用しづらい。

*3:そもそも、思いつきで書きなぐったので甚だこの推測自体が怪しいのだけれど