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Batisレンズファミリーが切り拓く "New Pro Era"(新たなプロの時代)

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この記事はZEISSの公式blog

lenspire.zeiss.com

の抄訳になります。

※ 原文(インタビュー記事)にある細かなニュアンスなどは、意図的に削ぎ落としています。細かな会話のニュアンスまで楽しみたい場合には、原文をご参照ください。

目次

元記事

まえがき; 新たな時代のための、新たなレンズファミリー

ZEISSが、Batisレンズファミリーをリリースして以来、ミラーレスカメラの世界は以前とは変わってきました。

次世代へと生まれ変わる気配の中には、(従来の一眼レフカメラの世界にはなかった)新たな考え方も存在しています。このインタビュー記事を読めば、次に来る時代の予兆を感じ取ることができるかもしれません。

インタビューアは、フィンランドのαフォトグラファー Toni Ahvenainen。回答者は、ZEISSのMichael Pollmann博士。博士はBatisファミリーのプロダクトマネージャーです。

このインタビューでは、SONYのEマウント αシステム、Batisレンズについて、さらにはレンズ設計へのこだわりついて語られています。

多くのプロ写真家、ハイアマチュアの方に、Batisレンズファミリーの将来性とその魅力が伝われば幸いです。

質問と回答

  • Batisが登場したときに掲げたスローガン『New Pro era(新たなプロの時代)』の意味は
    • プロの使用に耐えうるクオリティのレンズがBatisであり、プロの写真家がミラーレスを使う時代が近づいてきた、というのが元々意味するところ。
    • ZEISSにとっての新たな時代を切り拓いた(AFレンズの製作という転換期を迎えた)という意味合いもある。
    • αシステムの仕様を、サードパティのレンズメーカーに公開したことが大きい。これによりAFレンズの開発が可能になった。
    • プロの要求水準を満たすレンズ仕様を検討したとき、潜在的なユーザ全ての要求を満たすことは不可能と判断したため、BatisとLoxiaという2つのレンズファミリーを製作することにした。
    • APS-C用のTouitファミリーも含めると、現在ZEISSは3つのレンズファミリーを提供している。

カールツァイス ZEISS Batis 1.8/85 E-mount

カールツァイス ZEISS Batis 1.8/85 E-mount

  • 数あるミラーレスシステムの中でαシステムとの提携を選択した理由は
    • 高画質を追求するため、イメージセンサがなるべく大きなものを選択した
    • AFレンズを開発したかったため、メーカからシステムの情報を公開してもらえることが条件だった
    • SONYが速いペースで新型機を開発し続け、SONY自身がαシステムに並々ならぬ情熱を注いでいることが第3者から見ても分かった。また、新型機は常に改良や新機能が搭載され、カッティングエッジな製品であり続けていた。
    • 最後に、我々にとって重要なことには、SONYがレンズの開発に対して非常に積極的に協力してくれた。ちなみに、このパートナーシップは今年で20周年を迎える。
  • 最初の2本のBatisレンズ(25mmと85mm)は非常に高い評価を受けていたが、供給面で問題があり、多くの写真家は手にするまでに長い時間がかかった。この原因は
    • 高画素のセンサ(4200万画素)に対応する高性能なレンズは、理論上は設計ができても、仕様通りに製造する(設計値+許容誤差内の性能に収まるように製造誤差を抑える)ことが困難だった。
    • 加えて、想定以上のオーダーが発生したことが原因だった。需要に応えるため、数回生産ラインのスループットを上げる必要があった。
    • 最近では生産能力が大幅に上がり、需要に対して完全に応えることが可能になった。
    • 3本目のレンズ以降、Batisレンズは十分に準備して市場に投下した。にも関わらず、当初はバックオーダーを抱えたが、現在はオンタイムでの提供が可能となっている。一部の小売業者が在庫切れを起こす可能性はあるものの、数日で解消するはずだ。

  • Batisレンズの設計においては、レンズの描写性能に関して、どのような目標設定がなされた上で設計されているのか
    • 設計目標は、複合的な要因によって決定されている。設計哲学、設計最適化からの発展、設計タイプ(Planer, Distagonなど)、使用される技術や材料など。
    • この質問に対して的確に応えることは難しい。というのも、どれか1つの要因によって決まるわけではないため。
    • 1つ確かなことは、レンズ設計をどんなに綿密に行ったとしても、出来上がったプロトタイプを確認して微調整を繰り返す作業は、レンズ開発において重要なタスクの1つである。
    • 我々は純粋な客観的に把握できる描写性能、収差を極限まで抑えた最高の光学的画質、を追求している。
    • 写真家には、最高品質のイメージを提供し、創造性を適用する(好みの後処理を加える)機会を与えるという考え方に基いている。
    • ZEISSの哲学に関わるレンズ設計の詳細については機密事項である。
  • Batisファミリーの技術的特徴であるOLEDディスプレイはどういった背景から開発されたのか
    • 距離指標をどう実装すべきか、という社内での議論から始めた。議論の中で、望まれる機能が実現可能かを検討した。
    • AFを実現するにあたり、フォーカスバイワイヤにする必要があった。社内で『フォーカスバイワイヤを採用しつつ、どうすれば従来の使い心地を実現できるか?』というものから、『フォーカスバイワイヤにする必要があることを踏まえて、どうすればユーザにとって有益なものにできるか?』という議論を行った。
    • そういった経緯で、社内での発案で採用した。顧客からの要望があったわけではない。
  • Batisファミリーのもう1つの技術的特徴であるAF機構は、MFで知られているZEISSにとって特別なチャレンジだったのか。Batisファミリーより前に登場したTouitファミリーもAF機構を備えているが、当初はフォーカス速度が遅く、またモーターの駆動音も大きかった(Touit 2.8/50Mで大きく改善した)。
    • ZEISSにとって特別なチャレンジだった。
    • 他社(多くの場合、Batisファミリーの開発部門より遥かに大きい企業)は、既にAF技術を10~20年かけて開発し続けている。そう簡単に追いつけるものではない。
    • 一方、この分野は既に開発され尽くしているため、未知の新技術を研究する必要はないという利点があった。そのため、素早く性能を改善することが可能だった。結果として、競合するレンズから遅れをとらずに済んでいる。
  • Batisファミリーは、防塵防滴にも配慮されている。"防塵防滴"という単語が意味するところはメーカーにより様々ではっきりしない。ZEISSではどのようにして、レンズの耐久テストを行っているのか。
    • 耐水試験のためのラボを自社で有している。防塵試験は、外部のテストラボを利用している。
    • レンズは雨をシミュレートした水及び埃に直接晒された後、レンズ内に水滴や埃がないか、レンズが正常に作動するか、また、水滴が電子部品に到達していないか、をチェックされます。水滴が電子部品についていると、後々腐食が進み、誤動作を引き起こす可能性がある。
    • 私個人としては、防塵テストが興味深かった。テストに用いられる塵は極めて細かなもので、正直、製造したレンズはテストをパスするとは予想していなかった。この塵に比べれば、砂の粒は巨大と言えるくらいです。塵というより粉末というのが適切かもしれません。レンズは試験室内に置かれ、試験中、粉末が何時間もレンズの周りを飛び回ります。試験を終えると、粉末が堆積し、レンズを完全に覆ってしまいます。私には実利用でここまで過酷な状況はないように思われます。あえて言うなら砂嵐がこの試験の状況に近いと思われますが、レンズを使う環境としてはおそらく一般的ではないでしょう。にも関わらず、Batisレンズは全ての試験をパスしました。
  • プロの写真家向けのレンズとしては、Batisファミリー以外にも一眼レフ用のMilvusがあります。Milvusは、ZEISSが長年かけて培った際立ったレンズ設計の集大成であり、他メーカーのベンチマークになっている。Batisファミリーは、ミラーレスの世界におけるMilvusとなることを目指して設計されているのか。
    • MilvusとBatisには明らかな違いがある。
    • Milvusは、MFレンズで総金属製、Batisは、AFレンズで金属とプラスチックを組み合わせている。
    • 描写性能という点では、BatisとMilvusは同レベルの描写性能を実現するよう設計している。
    • Batisによって、フルサイズ一眼レフでのZEISSの性能をミラーレスの世界にもたらし、αシステムをプロ写真家の期待に応えられるものにしたいと考えている。
  • 現在、αシステムの超広角レンズとしては、新たにBatisファミリーに追加された大口径の超広角レンズ ZEISS Batis 2.8/18 と、Loxia 2.8/21との2つの選択肢がある。先に発売していたLoxia 21mmに加えて、Batis 18mmが追加されたのはなぜですか。
    • BatisとLoxiaとは、異なるタイプの写真家をターゲットとした異なる性格のレンズファミリーと考えている。
    • 最も大きな違いは、Loxiaは小さくコンパクトであり、BatisはAF対応で手ぶれ補正機能が付いている。
    • どちらがベストかは、写真家の求めるものによる。
    • FEレンズの広角領域を担うため25mmを発売した。25mmは広角レンズとして順当な画角のため、次のステップに、超広角領域を担うレンズとして18mmを追加した。
    • 18mmは、レンズを実用的なサイズに抑えながら、25mmとの差異を明確に出すことが出来る画角であると考えている。
    • また、BatisとLoxiaの両方を用いる場合には、18mm, 21mm, 25mmと広角レンズの選択肢を揃えることが出来る。

  • この業界の共通認識として、SONY Eマウントはバックフォーカスが短いために超広角レンズは設計が難しいという話がある。中には、αシステム用の高性能な広角レンズは設計できないと主張する人もいます。Batis 18mmの開発にあたって特別難しい問題はあったか。
    • SONY Eマウント用の超広角レンズを設計するにあたっては状況が異なる。センサからマウント部までの距離が短いことに起因して設計が難しいという話は、一眼レフ用のレンズ設計における共通認識である。(ミラーレスであるEマウントでは)前提条件が異なる。
    • 設計を始めた時点では、上手くできるかどうかは不明だった。幸運にして、Batis 18mmでは上手く設計出来た。
    • 一般的な話ではあるが、難しかった点の1つは、我々が定めた描写性能やレンズの品質基準を満たすことである。
    • より良いレンズ設計を実現できるかどうかは未知なので、これには多くの時間とともに、多くの議論が必要となる。
    • 最初の2本のBatisレンズが高い品質を実現していたため、我々としてはこの品質を維持したいと考えた。18mmは極端に短い焦点距離であったため、同様の品質を実現するため光学設計者に要求される水準は(最初の2本に比べて)一層高いものになった。
  • Batis 18mmは、『フルサイズ用に製造されたレンズの中でも最高性能のレンズの1つ』と言われています(引用元:Lloyd Chambers氏のレビュー)。実際、全てのBatisレンズは画面全域において極めて高い光学的性能を有しており、そのことはレンズ構成図を見てもはっきりと分かります。特にBatis 18mm, 25mmの広角レンズには、多数の両面非球面ガラスや他の特殊ガラスが用いられています。これらのレンズ設計について調べた際、ZEISSのカタログを眺めても、ここまで複雑なレンズ構成を有するレンズは見当たりませんでした。従来にはなかった複雑なレンズ構成は、新規に考案された革新的なアプローチによるものなのか、それとも例えばOtusレンズファミリーで蓄積した知識を活用したものですか。
    • 特別な硝材や非球面レンズを用いることで、設計の自由度が上がる。レンズの口径を無闇に大きくすることなく、収差をよりよく補正できるようになる。
    • Batisの場合、レンズの大きさは重要視した点である。レンズはカメラボディの大きさに対してバランスの良いサイズにするべきである。そのため、目標とする描写性能を満たしながら、レンズのサイズを許容範囲内に抑えるために、より多くの非球面レンズを用いた。
    • とはいえ、長い間社内で議論があった。非球面レンズを採用すると、より高度に製造誤差をコントロールする必要があり、製造時、及び組み立て時に品質を低下させてしまう可能性が上がる。
    • 4枚もの両面非球面レンズを採用するように私の同僚を説得するにはかなりの労力が必要だった。プロトタイプを手にするまでに何度も厳しい夜を迎えたが、幸いにも目標とした描写性能を実現できた。
  • Batisファミリーは、『伝統的な一眼レフでないとプロ写真家が要求する画質は実現できない』という常識に疑問を呈した点で極めてエキサイティングだ。Batisファミリーは、SONY αユーザ向けに、コンパクトで一貫し妥協のない性能を有するレンズを提供している。Batisファミリーはαシステムのメリットを強調しているが、より俯瞰的な視点で見れば、カメラ市場におけるミラーレスシフトに繋がっている。次の10年間でカメラ技術はどう変化するか。ミラーはまだ残っているのか。どんな新たなイノベーションが待っているか。
    • 未来を見通す水晶は持っていない。このため、以下は、単に私の主観的かつ個人的な意見を述べるに過ぎない。
    • カメラの大半はミラーレスになっていると期待している。
    • レフ機とミラーレスとの差はなくなっていると思う。この2つは、カメラのコンセプトを示す技術的な話でしかなく、カメラの使い途やユーザーの利益にはさほど関係しない。ミラーレスを使ったからと言って自動的に写真がよくなることはないし、光学ファインダであろうと良い写真を撮るにあたって必要な操作は変わらない。
    • ミラーレスは、システムを小型化出来る点で多くの注目を集めている。ただし、レンズに関しては残念ながら、レフ機と同様の物理的制約に従う必要がある。
    • システム全体のサイズは、レフ機かミラーレスかによってではなく、顧客が何を求めるかにより決まる。画質を向上させるためには、より大きなサイズが必要となる。このため、画質を最優先事項と考えるならば、ミラーレスと言えども現行の一眼レフとそう変わらないサイズになる。サイズを最優先に考えるならば、全体のサイズはより小さくすることができる。

訳者の雑感

非球面レンズや特殊硝材など多く用いれば用いるほど、レンズ設計はできても製造の難易度が飛躍的に上がってくることが感じられていい話だなぁと。

このインタビュー記事では、言外に、非球面を作製するための製造(加工)技術や、設計通りに加工できていることを確認するための計測技術、加工したレンズを誤差なく組み付けるための製造ノウハウ・技術など、通常陽の当たらない、けれどレンズの製造において不可欠な極めて重要な技術の存在を感じさせられる記事になっているあたりが、とてもグッときた。

昨今、高画素に対応する超高性能レンズが一般的になってくるにつれ、こういったバックグラウンドの技術力の差が表れてきているような気がしないでもない。

『レンズが物理学的制約(光学的な制約条件)のもとで作られる以上、ミラーレスと言えども、画質を突き詰めていけば、一眼レフとかわらないサイズになるよ』ってのは、だよねー、という感じ。勘ぐれば、αシリーズ最上位機(α9?)は一眼レフと同等サイズになるって暗に言っているのかなぁという気がしないでもない。勘ぐり過ぎかな。